JERAが天然水素の米新興企業に出資、地下から掘る水素は発電燃料の本命になり得るか
ニュースの概要
JERAが、地下で自然に生まれる天然水素の探査と開発を手がける米国の新興企業Kolomaに出資する。金額は明らかにされていない。JERAは同社の探査技術や知見を生かし、将来、天然水素を供給する事業に参入できるかどうかを検討する。天然水素は、水を電気で分解して作るグリーン水素と違い、地下から直接くみ上げられる可能性がある。そのため、製造時のエネルギー消費やコストを抑えられると期待されている。ただし、商業規模での採取例はまだ限られている。実用化には、どこにどれだけ埋まっているかを正確に見極める技術が欠かせない。今回の出資は、その技術の価値を見定めるための第一歩といえる。
引用元: JERA、天然水素探査の米スタートアップKolomaに出資(The Denki Shimbun)
分析・見解
掘って手に入れる水素が、第三の選択肢になる理由
水素は製法によって色で呼び分けられる。天然ガスから作る「グレー」、その際に出る二酸化炭素を回収する「ブルー」、再生可能エネルギーの電気で水を分解する「グリーン」だ。天然水素はこのどれとも違う。岩石と水の反応などで地下にたまった水素を、井戸で直接くみ上げる考え方である。
最大の魅力は、水の電気分解に使う大量の電力が要らない点だ。うまくいけば、グリーン水素より大幅に安くなる。一部の事業者は1キログラム1ドル前後を目標に掲げる。ただし、商業規模で安定して供給した例はまだほとんどない。しかも、採る過程でメタンなどが混じる場合もあり、環境面の評価は現場ごとに確かめる必要がある。数字は期待を含んだ目標値と見るべきである。
勝負は「どこに、どれだけあるか」を当てる探査力
天然水素の難しさは、石油や天然ガスとは性質が違うところにある。水素は最も小さな分子なので、岩盤のすき間から抜けやすい。地中の微生物に食べられて減ることもある。つまり、湧いている場所を見つけるだけでなく、逃げずに残っているかを見極める必要がある。
実例はある。西アフリカのマリでは、村の井戸で見つかった高純度の水素が、地元の発電に使われてきた。2024年には米国の研究者が、地下に存在し得る量は世界の需要を長期間まかなえる規模になり得るとする推計を発表した。ただし推計が示すのは「ある」量であり、「採れる」量ではない。この差を埋める技術こそ、Kolomaのような企業の価値になる。
JERAの狙いは、燃料の調達先を増やす保険にある
JERAは石炭火力にアンモニアを混ぜて燃やす実証を進めるなど、水素系の燃料を脱炭素の柱の一つに置く。ただ、水素もアンモニアも海外からの調達が前提で、価格の高さが重荷だ。天然水素が実用化すれば、作る燃料から掘る燃料へと、調達の考え方そのものが変わりうる。
今回の出資額は非公表で、供給事業への参入も「検討」の段階にとどまる。大きな賭けというより、技術の成否を内側から見るための小さな保険と読むのが自然だ。
見落とされやすい壁は、採れた後の運び方にある
仮に安く採れても、発電所の隣で見つかるとは限らない。水素は軽く、運ぶには液化したりアンモニアに変えたりする手間とコストがかかる。採掘地が米国や豪州なら、輸送費が安さを打ち消す恐れもある。
だから、天然水素の当面の価値は燃料の安さより、探査データという情報にあると考える。石油開発でも、地質情報を持つ者が次の権益を先に押さえてきた。JERAが探査技術と知見に近づく意味はそこにある。
ビジネスへの影響
燃料の選択肢を増やす発想が、調達戦略の基本になる
電力会社やガス会社、化学・鉄鋼メーカーにとって、今回の出資は「水素の値段は電気分解だけで決まらない」という合図である。水素を使う計画を持つ企業は、グリーン一本、輸入アンモニア一本という前提を見直したい。複数の調達ルートを比べられる形にしておくことが大切だ。
具体的には、中長期の購入計画に「価格が大きく下がった場合の条件」を入れておく。契約期間や数量を柔軟に変えられる余地を残すだけでも、将来の選択肢は広がる。
小さく関わって学ぶ、出資と提携の使い分け
JERAのやり方は、他社にも参考になる。自社で掘る力がなくても、有望な新興企業へ少額を出し、探査データや試験の結果を早く知る道がある。出資ではなく、共同の調査や購入の意向表明にとどめる選択もある。大事なのは、何を学べば次の投資判断ができるかを先に決めておくことだ。
判断の目安は三つある。実際に採れた量の公開、商業規模での連続運転の期間、供給先までの輸送費を含む価格である。これらが示されるまでは、天然水素は成果ではなく可能性として扱うのが安全だ。
水素設備への投資は、燃料の幅を持たせて進める
ボイラーやタービン、貯蔵設備を検討する企業は、水素の産地が変わっても使える仕様かを確認したい。純度や圧力の条件が違えば、追加の設備費が出る。天然水素は不純物を含む場合があるため、受け入れ基準の確認は早めに行うべきだ。
自治体や地域企業にとっても、地下資源の調査は新しい論点になる。国内に有望地が見つかれば、輸入に頼らない地域の燃料になりうる。まずは公開される調査結果を追い、動向を定期的に点検する体制を持つことが、現実的な第一歩である。