EU水素支援は研究から輸送網まで一本化、鍵は届ける道づくり
ニュースの概要
ブリュッセルで開かれたEUの気候関連サミットで、水素分野を前に進めるための支援策が紹介された。EUの執行機関の担当部門は、研究開発、実証、商用展開、市場づくり、輸送インフラの整備まで、段階ごとに使える資金や枠組みを説明したという。中でも目を引いたのが、ベルギーのAmplifhy Antwerp計画である。EUが「共通利益プロジェクト」と位置づけた事業で、輸入したアンモニアから年間14万トンの水素を取り出して供給する構想が示された。水素を作る技術だけでなく、使う人のもとへ届ける道筋まで含めて支える姿勢が、今回の発表の特徴である。
引用元: EUの水素プロジェクト、研究からインフラ整備まで支援拡大(The Brussels Times)
分析・見解
支援が研究だけで終わらず出口まで続く設計
水素の支援というと、多くの人は電解装置など「作る技術」への補助を思い浮かべる。しかし今回の説明で強調されたのは、研究、実証、商用化、市場導入、輸送網までを一続きで見る姿勢である。
背景には、実証までは進んでも、その先で止まる案件が多いという反省がある。いわゆる「死の谷(=研究と事業の間に横たわる資金の空白)」を埋めない限り、技術は工場の外へ出ていかない。段階別の支援は、この空白を狙ったものだ。
アンモニア経由で年14万トンを運ぶ意味
Amplifhy Antwerpの計画は、アンモニアを港で受け入れ、そこから水素を取り出す。年14万トンという規模は、大型の製油所や化学工場の需要を支えうる水準である。
なぜ水素そのものでなく、アンモニアなのか。水素は軽くて漏れやすく、運ぶには極低温や高圧が要る。アンモニアは液体にしやすく、既存の肥料・化学向けの輸送と貯蔵の経験が活かせる。いわば水素を「運びやすい荷姿」に変えて運ぶ発想である。日本でも、火力発電所での混焼を狙ったアンモニア利用が進んでおり、同じ技術潮流にある。
共通利益プロジェクトという肩書きの重み
EUが共通利益プロジェクトに指定すると、許認可が早まり、国をまたぐ資金の仕組みも使いやすくなる。民間にとって最大の不安は、投資を決めても許可や接続で何年も待たされることだ。その不確実さを減らす効果は、補助金の額面以上に大きい。
独自の見方を足すなら、今回の核心は金額ではなく「順番」である。需要家、輸送網、供給源が同時に立ち上がらないと水素市場は動かない。鶏と卵の問題に対し、EUはまず港という結節点に投資を集める道を選んだ。ロッテルダムなど北海沿岸の港が水素の玄関口を競う中、アントワープも同じ土俵に立ったといえる。
それでも残る価格と分解効率の壁
課題も明らかだ。アンモニアから水素を取り出す工程では、エネルギーの損失が出る。さらに、輸入元で作る水素やアンモニアがどれだけ低炭素かによって、環境面の価値は大きく変わる。
水素の製造コストは、再生可能エネルギーが安い地域でも1キログラム当たり数ドル台に及ぶとされ、灰色水素(=天然ガス由来の従来型)との価格差は残る。支援が切れた後も自走できるかが、本当の試金石になる。
ビジネスへの影響
水素の調達先を複数の経路で想定する
化学、鉄鋼、海運などで水素やその派生品を使う企業は、供給の入口が港に集まる流れを前提に計画を立てるとよい。パイプラインで届く水素、アンモニアで届く水素、自社で作る水素。この三つを比べ、立地ごとに最も安い組み合わせを探す作業が要る。
日本企業にとっても他人事ではない。欧州で形づくられる規格や認証の考え方は、輸出入の条件として波及しやすい。早めに情報を集め、自社の調達条件に取り込んでおきたい。
補助金は段階ごとに取りにいく
支援が段階別に整理されたことで、中小企業や設備メーカーにも入り口が増える。まず研究や実証の段階で小さく参加し、実績を作ってから商用の枠へ進む戦略が現実的だ。
注意すべきは、補助金頼みの事業計画にしないことである。支援が終わったあとの販売価格と、顧客が払える水準を先に確かめる。長期の買い取り契約を結べる需要家を一社でも確保できれば、資金調達の説得力は大きく変わる。
立地と許認可の速さを投資判断に入れる
工場や設備の立地は、輸送網への接続のしやすさと許認可の見通しで価値が決まる。共通利益プロジェクトの周辺地域では、関連投資が集まりやすい。港に近い土地、電力網に余裕のある土地を早めに押さえる動きは、今後も続くだろう。